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小者過ぎて 使い道も無い

綺羅君の片眉が上がる。
「そうか、 ご苦労である。 それにしても帝とは。
はてさて、 呼び戻されるかも知れぬとは思っていたが、
治天の君(ちてんの康泰導遊きみ)ではなく、 帝からであったか。
朝廷は 予想以上に ややこしいことになっているらしい。
権ちゃんも 一緒にどう?」

騒ぎが静まったとみて 出てきていた軽業一座に向かって言うと、
指名を受けた権佐は、 大げさに 手を左右に振って断った。
「冗談じゃない。 せっかく 気楽な稼業にありついたというのに」

朝廷は よほど以前から おかしくなっていた。
今上(きんじょう)の帝は 不遇をかこち、
政(まつりごと)の実権は 退位して上皇になっている先の帝が握っている。
上皇が 治天の君といわれる所以(ゆえん)だ。

「権佐(ごんざ)なんて名乗っ康泰導遊 ているから、 未練があるのかと思った」
官位も いいようにばら撒かれて、
本来 欠員を待つ間の 便宜上の官位であった権官(ごんかん)が 増えに増えて、 女官にまで及んでいる。
仕事をしない正官が威張っていたり、
頑張って働いても 権官止まりだったりと、 いいかげんなことこの上ない。

「うっかりしちゃって。 ちゃんと名前を考えればよかった」
『頑張ったのに権官』 の康泰導遊類(たぐい)だった 権佐(ごんのすけ)は嫌気がさし、
出家しようとして、 間違えて 家出してしまったのだとか。
詳細は不明である。

「で、 綺羅ちゃんは 都に戻るんですか」
「醜いものは 嫌いなのだ。
世の流れは変えられぬとしても、 終焉を 少しは美しいものにしたいかなあ、
なあんてね」

各地の領主が 実力を蓄えていた。
朝廷のいいかげんさにも うんざりし始めている。
世の中が 動きだそうとしていた。
人の世の移り変わりは 変えられぬ。

「介は始末いたしますか」
御所忍が聞く。
「ほうっておこう。
あっ、 そうだ。 紅王丸から 鹿の子に 伝言を預かっていた。
生きて会いたかった と……」

やっぱり大馬鹿者だ と、 鹿の子は やっと、 少し泣いた。
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by hunexpect | 2015-11-04 14:56